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 コラム「一休さんと一休み」

12. 「葬儀代の請求」

私の会社は、東京都葬祭業協同組合(略して 東葬協)に所属しております。それは区ごとに支部が分かれていて、うちは大田支部に属しています。ほぼ月に一回、「常会」と称して支部員が集まり、本部からの連絡事項(各契約葬儀についてなど)を伝えたり、情報交換を行っています。たまに会合が終わってから、懇親会を行います。

 ある時、その懇親会の中で私と若手の葬儀社何人かで、支払いの遅れている顧客様からの請求方法について話をしていました。内容証明を作って送る方法とか、分割支払い方法とか、様々な案でまじめに話していました。その時、前の方の席からちょっとお酒のはいった老舗の葬儀社(うちも老舗です)の社長が、話しかけてきました。

「よう、メイシン(支部ではそう呼ばれています)。葬儀代の支払いが遅れているって人は、たぶんそうとうな事情があるもんなんだから、情をもって接しなきゃだめだぞ!」
「はい、うちも地元密着の葬儀屋ですから、いつも心掛けています。」
「だったら、そんな催促の方法をかんがえるより、大きな気持ちで多少待つぐらいのことをしなきゃいけねぞ。今の若い人はすぐにキチンとならなきゃ気が済まない。商売はそんなにすべてキチンとならねぇもんなんだ。たまには損をしたりするが、それが後々得になったりも、するもんなんだ。」
「わかりますけど…」と私は少し口ごもりました。 すると「もう、30年前ぐらいになるけどな… 」と社長は、話はじめました。

 その社長の親しい友人からある方の葬儀を頼まれました。ただ、その友人からは「その家の奥さんがなくなられたんだが、とにかくお金がないのでお願いします。」といわれていました。早速、自宅にうかがうと六畳一間のアパートで、そこにご主人と小学生の息子さん達二人の三人が、故人を前にうつむいていました。皆、粗末な格好をして、見るからに生活に困っていそうです。

 そこで社長は「○○さんからいろいろと聞いております。無理に葬儀をすることないんですよ。先に荼毘に付してあげて、それからお寺で供養してあげたらいかがですか。それでも十分供養になりますよ。またそれが一番ご負担が少ないですよ。」とその主人にいいました。

しかし、そのご主人は
「いや、そんなことはできない。私が体を壊して、妻には散々苦労をかけてしまった。だから、立派じゃなくても、葬儀だけはちゃんとしてあげたいんだ。」
と涙ながらにいわれました。

社長はご主人の気持ちを大事にしたいと思い、特別に勉強した、葬儀の見積もりをしました。  見積り後、その総額をご主人に提示して何度も確認しましたが、ただ主人は「大丈夫です。それでお願いします。」というばかりでした。

 その当時は、どんな方でも自宅で葬儀をする時代でした。当然そのご自宅で葬儀をすることになりました。しかし、六畳一間に祭壇を飾って葬儀を行うのはやはり大変です。社長は苦労しながら葬儀の設営をしました。社長が設営をしている時です。そのお通夜にだす料理の材料を近くの八百屋さんが運んできました。(その当時は、近所の人達が手分けをして料理などを作ってくれた。)

「すいません。八百屋ですが、ご注文の品をお持ちしました。」
「ご苦労様です。ちょっとここの主人がいないから、そこに置いていってください。」と社長。
「いやぁ、それは困ります。お代と引き換えじゃないと…。」
「すいません。私は葬儀屋なんですよ。
今、喪主は葬儀の手伝いのお願いとかで外に出てるんだ。
後で言っておくから置いてってくださいよ。」
「じゃぁ。このお品も引き取って参ります…。」
「ちょっと待ってくれ。もう手伝いの人も来ちゃうからそれも困る。しょうがない。私が立て替えておきます。」
「すいません。私もそうするように店の主人から言われているもんで…。」
社長は仕方なく、その代金を立て替えました。
 そうこうしていると、今度は酒屋さんが来ました。やはり同じようなことを言われたので、また社長が立て替えました。そしてお米屋さんも来ました。それも社長が立て替えました。そのことを帰ってきた主人に話しました。
すると
「葬儀屋さん、本当に申し訳ない。その代金は葬儀代と一緒に支払うから、少しの間立て替えておいてください。」と言いました。
それには社長もとても不安になりました。

 そのお通夜に予想以上に多くの会葬者が来られました。その亡くなられた奥さんのご人徳か、ご主人のご人徳か、とにかく多くの会葬者がこられました。社長はお通夜のあと少し落ち着いたところで、ご主人を外に呼び出し思いきって言いました。

「ご主人、ちょっとよろしいですか。大変失礼ですが、もう一度聞きますけど、うちへのお支払いは大丈夫ですか。今日、私はいろんなところの代金を立て替えました。私もこんなことは初めてです。本当にお困りなようですね。しかし、うちも商売です。お宅様からいただいたお金で社員に給料を払わなければならないし、私もそれで生活しなければならない。いくら○○さんの紹介といっても、正直不安です。そこで勝手なお願いなんですが、今日、たくさん会葬者が来られました。当然、そのお香典もいくらかいただいたかと思います。その中から、手付金でいくらかいただけませんでしょうか。私もこんなことは言うのはいやなんですが…。お願いします。」

 すると地面に頭を擦り付けて、おんおんと声をあげてご主人が泣き出しました。
「本当に申し訳ない。葬儀屋さんには本当に感謝しています。立派な祭壇を飾っていただいて、その上、いろんな代金まで立て替えていただいて…。なんていったらいいのかわかりません。実は、先ほどいただいたお香典はその半分をお寺様にお渡ししてしまったんです。しかし残ったお香典はお香典返しに使わなければなりません。ですから、今、本当にお渡しできるお金がないんです。申し分けありません。必ず代金は毎月分割でお支払いいたします。」

「そんなバカなこと、ありますか! じゃぁ、最初から支払える目処がないのに頼まれたんですか。冗談じゃありませんよ。それに、支払う順序が違います。お寺様には仕方ありませんが、お香典返しは、まだ先の話じゃありませんか。その分を先にうちへお支払いください。そうじゃないと、私はもう明日きませんから。」

 当時若かった社長は、そう言ってご主人の前に憮然と立っていました。
するとその時、祭壇の飾ってある部屋から息子さん達の声がしました。

「うちは大丈夫かな、お兄ちゃん。今までお母さんが働いて稼いでたんでしょ。
これから僕達どうなるのかな。」
「何言ってるんだ、大丈夫だよ。お父さんは腕のいい職人なんだ。
病気さえなおれば、すぐにたくさん稼いでこられるんだ。
全然心配することないよ。
それにうちは親戚がみんなお金持ちだから、みんな助けてくれるんだ。
お父さんがそう言ってたぞ。
だからこの立派な祭壇だって親戚がいっぱいお金を出して借りてくれたんだ。
お兄ちゃんは全然心配してないぞ。
だから心配すんな。」
「うん、わかった。」

 社長とご主人は涙を流しながら、しばらく言葉をいえませんでした。
そして、社長が

「ご主人、いい息子さん達ですね。私も子供がいるんですが、あんなに強く心がやさしくないかもしれない。ご主人私は間違っていました。そして自分がなんて卑しい人間なんだと本当にはずかしい。今、あなたが一番しなければいけないのは、あのお子さん達を立派に育てることですよ。あの子達ならきっと立派に育ちます。私はしばらくの間、あのお子さん達の親戚になります。失礼なことを言って申し訳なかった。支払いのほうは月々支払えるだけお持ちになれば結構ですよ。○○葬儀社はそれぐらいのことが出来なくては、この地域で商売できないですよ。それじゃ、明日もよろしくお願いします。」

「本当にありがとうございます。必ず毎月お返しいたしますので…」
ご主人は言葉を搾り出すようにして言い、ずっと頭を下げていました。

葬儀が済んでから、そのご主人は毎月きちんと少ない額でしたが、支払いにきていました。そしてそのたびに社長も子供の「おふるの服」やお菓子などを子供にと渡していました。しかし、残金、数万円を残してぷっつりと来なくなってしまいました。
 来なくなってニ、三年たったころのある夜中、店の戸をどんどんとたたいて高校生ぐらいの男の子が二人店に入ってきました。よく見ると、あの時の子供達です。しかし、あのころと違って身なりはずいぶんと小奇麗にしていました。

「母の時はいろいろとお世話になりました。」
「いやぁ、大きくなったねぇ。お父さんこなくなっちゃったから、
心配してたんだけど、元気ですか。」
「それが、先ほど亡くなりまして…。葬儀をお願いします。」
「えっ! 亡くなった!」
「はい、今病院で亡くなりました。
○○葬儀社さんには、電話でご連絡をしようとも思ったんですが、
いろいろとお世話になっているので、直接お願いに参りました。」
「そうですか…ご愁傷様です。それじゃぁ、これから病院へお迎えに参ります。
しかし、君達も二人きりになってしまったね。葬儀は無理にしないように…。」
「いいえ、私達には、今新しい母がおります。病院で母が待っていますので、葬儀の相談は母とお願いします。」
「そうですか、後妻さんをもらったんですか…。どうりで小奇麗なカッコをしてると思った。…あっ、すいません。それでは、早速、お迎えに参ります。」
 社長は寝台車で子供達二人を乗せて、病院にむかいました。
病院の霊安室には、綺麗な和服を着た、亡くなったご主人よりも少し年上の女性が座っていました。
「○○葬儀社です。この度はご愁傷様でした。お世話させていただきます。」
「○○の家内です。主人の前妻の葬儀の時は、大変お世話になりました。よろしくお願いいたします。」
 社長は故人を寝台車に乗せて、ご自宅へと向いました。ご自宅について社長はビックリしました。大変立派なお屋敷でした。そしてその奥さんは建築会社の社長をしていました。
 いろいろ話を伺うと、職人で腕のいいご主人は、葬儀後、その会社に子供と一緒に住み込みで働いていたそうです。きっかけは子供達でした。その奥さんも前のご主人に早くに先立たれて、その後、一人で会社を切り盛りして立派な会社に築き上げました。子供好きの奥さんは、そのけなげな子供達の世話をするうちに、まじめなご主人とも気があって、所帯を持たれたとのことです。社長は大きくうなずきました。あのご主人ならば、自分よりも子供の事を一番に考えられたのだろうと…。

 葬儀は社葬として立派な葬儀でした。会葬者の誰もが涙を流し、本当に人柄が偲ばれる葬儀でした。葬儀が終わって、社長は集金にうかがい精算をすませました。

「大変、お疲れ様でした。いい方でしたから、ご会葬も多かったですねぇ。」
「はい。一応社葬として行いましたが、来てくださった方々は皆心から手を合わせてくれていました。感謝しています。それに葬儀屋さんには、本当に立派な祭壇を飾っていただきましてありがとうございました。」
「ありがとうございます。葬儀屋として、葬儀が終わってから言われる、その言葉が何よりうれしいですよ。」
「葬儀屋さん、前の葬儀の残金がまだ残っていると、主人が言っていました。どうぞこちらをお納めください。」
と言って、100万円を差し出されました。当時の金額では大変です。
「トンでもありません。こんなには納められません。残金だってあと数万円です。」
「いいえ、主人の遺言なんです。どうぞ納めてください。主人に怒られてしまいます。」
 そう言うと、奥さんの目から涙がこぼれました。社長も涙があふれました。しばらく、お互い言葉を交わさずに向き合っていました。
「なぁ。そんなことも世の中には、あるんだよ。だから情を持って接しなきゃ、だめだぞ。なぁメイシン。」
「すごい美談ですねぇ。感動しました!」
「でもな、最近は世知辛いから請求の方法はちゃんと知っとくのも必要だ。若い人は研究熱心だから、頼もしいな。あとで教えてくれ。」
と言って社長はまた飲みにいってしまいました。でも、後で気づきましたけど、「一杯のかけそば」に似てる気もしますよね、この話…。


金子直裕
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